プロデューサーズは、最高にゴージャスでゴキゲンでザッツエンタテインメント!!ミュージカルの中のミュージカル!!であると同時に(だからこそ、かな?)業界事情を描いたいわゆる「バックステージもの」であり、過去の名ミュージカルの名場面を拝借したりいじったりした「オマージュもの」であり、移民や性的指向などの社会問題を俎上にあげた「マイノリティもの」であるので、文化背景に基づいたジョークや小ネタがものすごく多いです!
もちろんそこは天下の東宝、なんの予備知識もなく観ても100%楽しめるように作ってくださってますが、強欲に掘り下げて200%楽しもうと、ちょこちょこ小ネタ探ってます。
上演中の舞台を観て「お!」「ん?」と思ったことのうち確認した分メモ。各文化や主義主張についてはあくまでエンタテインメント作品の中の位置づけとしての印象とか勝手な私見なのでどうか悪しからず。
◇<ACT Ⅰ>S1 シューバート通り
看板「SHUBERT THEATRE」
ブロードウェイに本当にある劇場で、トニー賞(ミュージカルのアカデミー賞みたいなやつ)受賞式もやってたり、有名な大作も長年たくさん上演してきてたりと、ブロードウェイを牽引してきたと言っていい、非常に権威のあるところ。マックスが今は落ちぶれたといってもここを使えるってことは、昔は本当にキングだったんだなぁと感じさせます。
看板「SARDI'S」
ショービジネス関係者御用達のレストラン。トニー賞も含めいろんなノミネートが発表されたり、著名人のイラストが壁一面にあったり、ブロードウェイを志す若者の憧れとして象徴的によく出てきます。レオくんもプロデューサーになったらここでご飯食べるんだ!と後で歌いますね。
看板「St.James」
同じく歴史ある代表的なミュージカル劇場です。この「プロデューサーズ」はここで上演されていました。
看板「Funny boy」
元は「Funny Girl」バーバラ・ストライサンドの出世作になったミュージカルコメディ。Funny boy はハムレットのミュージカル版と説明がありますが悲劇か喜劇かは謎。
◆<ACT Ⅰ>M1 初日よ
場面「初日」
すごくざっくり言うと、日本では興行元会社が上演期間を決めて資金を用意して作品を作ってからチケットをがんばって売って費用を回収しますが、ブロードウェイは製作費用を出資者から集めて作り、開幕して初日(opening night)をみた批評家の劇評や口コミでチケットが売れていき、たくさん売れて上演期間ものびて儲かった中から出資者に配当を還元する、売れなくなったらすぐ終わり(closing night)です。なので初日は業界人がたくさん来て終演後は関係者パーティーになる感じでの正装かなと思います。
◆<ACT Ⅰ>M2 ブロードウェイのキング
人物「盲目のバイオリニスト」
黒い眼鏡で街路で弾いている人は盲目の演奏家、とその街では誰もがわかるイメージ。そこへわざわざ「この俺を見ろ!!」と言わせに行くあたりが作者の攻めた皮肉やマックスのキャラクター造形に。
歌詞「ジーグフェルド」
Florenz Ziegfeld, Jr.
20世紀初頭のアメリカのショービジネスを牽引した伝説的な有名プロデューサー。ジーグフェルド・フォーリーズ というショーのシリーズを始め多くの作品を作り、多くのスターを送り出しました。
歌詞「イディッシュ語」
Yiddish
イディッシュ語は主に中欧東欧のユダヤ人の言葉。地域がポーランド・ウイーン・プラハにわたることからもイメージされるとおり、文学や音楽や演劇など芸術面で他への影響を大きくもつと言われます。
(芳雄さんがなんて言ってるかまではわからない…いちおう毎回同じっぽいけど…適当じゃないでしょうね?)
歌詞「ボリス・トマシェフスキー」
Boris Thomashefsky
イディッシュ劇場の創設者。すごくざっくり言うと、ブロードウェイがショービズの街になったのは、ユダヤ系移民によるイディッシュ劇場の隆盛が始まりで、20世紀初頭から今にいたるまでブロードウェイを支えるクリエイターのかなりの割合をユダヤ系とゲイが占めています。
背景
作品中では言及されないけど、原作者によるとマックスもレオもユダヤ系の人物。(原作者もユダヤ系でヒトラーをいじり倒すことに人生をかけてる)。世界で一番ユダヤ系民族が多く住んでいるのはニューヨークで、特に芸術と金融の分野で活躍する人が多いそうです。そういう意味ではブロードウェイプロデューサーと会計事務所、というのもぴったりの設定なのかも?
曲調
この曲自体、ユダヤ人家族を描いた代表的なミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」を想起させる曲調で、ユダヤ風だとわかる感じになっていると思います。ロシア風の振付もかなりありますが、ロシアもののミュージカル何かあるかな?
◇<ACT Ⅰ>S2 マックスのオフィス
ポスター「KING LEER」
元は「KING LEAR」言わずと知れたシェイクスピアの「リア王」
leerは流し目を送る、色目を使う、とかなので、色目王ですかね。
ポスター「100 DOLLER LEGS」
元は「Million Doller Legs」古い映画で邦題「進めオリンピック」桁が違ってだいぶ安い脚に。
ポスター「When Cousins Marry」
元はたぶん。「Cousin Mary」コルトレーンの名演が有名がジャズのスタンダードナンバー。いとこ婚。cousins には俗語で別の意味も。
ポスター「The Breaking Wind」
元は「Whistle Down The Wind」ですかねぇ。これだったら風に乗せて歌う、という意味になるようです。今年途中までこのままのタイトルで日本上演されていました。違うかな…もっと似てるのあるかも…? Breaking Wind は俗語でおならをする、です。
台詞「ホールドミー・タッチミー」
Hold Me -Touch Me 抱いて触って
台詞「キスミー・フィールミー」
Kiss Me-Feel Me キスして愛して
台詞「クリンチミー・ピンチミー」
Clinch Me -Pinch Me 縛ってつねって
台詞「リックミー・バイトミー」
Lick Me - Bite Me 舐めて噛んで
台詞「サックミー・ファ…」
Suck Me - Fu … 吸って…
台詞「ヤンクミー・スパンクミー」
Yank Me - Spank Me 首輪をつけてお尻を叩いて
作品名「レント」
RENT
直接の意味はたしかに家賃。世界各地で上演され続ける有名ミュージカル。マイノリティの若者を描き社会問題に焦点をあてブロードウェイの転換期のひとつを担っています。今まさに日本でも上演中。がんばって欲しいです!
◇<ACT Ⅰ>S3 ホワイトホール&マークスのオフィス
曲調
言及されていませんが、オフィスの曲調はたぶん黒人霊歌風ではないかしら…スタンダードナンバー Deep River みたいなイメージに聞こえます。
台詞「カントリークラブ」
country club
日本だとゴルフ場のイメージですが、限定じゃなく各種スポーツとレストランや遊技場などがある会員制の施設。和気あいあいの遊び場じゃないんだぞってことですかね。
◆<ACT Ⅰ>M4 なりたいよプロデューサー
曲調
ここは20世紀前半のMGMミュージカル映画黄金期スタイルだと思います!雨に唄えば など素晴らしい映画を数多く制作したMGMスタジオ作品は、ハットにステッキにタップ、美女に翻弄されるダンス、広いセットスタジオのダンスを俯瞰で撮る、というイメージでとにかくお洒落で華やか。
歌詞「サーディーズ」
SARDI'S
前述の劇場街を象徴するレストラン
◇S5 マックスのオフィス(翌朝)
台詞「グリニッジ・ヴィレッジ」
Greenwich Village
今は文化人と自然の多いお洒落な街というイメージですが、1960年代は少々猥雑なエリアとされていたようです。落ちぶれたとはいえブロードウェイをシルクハットで歩き回ってるマックスから見れば特にそうなのかも。
◆M8 グーテンタークピョンピョン
台詞「すぐにアルゼンチンにも知らせが届くぞ」
ヒトラーは密かに南米に亡命したという噂が戦後しばらくありました
◇<ACT Ⅰ>S7 ロジャーの邸宅
呼び鈴のメロディー「 ♪ I feel Pretty」
伝説の大ヒットミュージカル、ウエストサイドストーリーの中の曲。恋する乙女なかわいい歌詞に 「I feel pretty ,and witty and gay」とあります。
「gay」のダブルミーニング「ゴキゲン」「ゲイ」でニヤリとするところ。
ちなみにこのシーンはもともと全体にこの2つの意味のgayをニヤリどころか徹底的にゴリおしてくるところですが、今回の日本上演ではおしなべてオネェになっており、流しやすい部分もありますが活きない部分もありますね。翻訳上演は大変だー。
台詞「ウィキッドな西の魔女さん」
前述のMGMミュージカル映画代表作のひとつ「オズの魔法使い」この作品は隅から隅までミュージカルの名シーン!ウィキッドは悪さをする者というニュアンスもあるけどそのまま西の魔女を表します。
この西の魔女が主役でやはりトニー賞をとっているのがミュージカル「ウィキッド」。大好きなので関連付けたいけど、プロデューサーズのあとに作られてるからこれはさすがに違いますね。
台詞「えい、えい、おうちに帰りたい」
上記「オズの魔法使い」でジュディ・ガーランド演じるドロシーが魔法のルビーの靴を手に入れ、かかとを打ち付けてお願いごとすると叶うよ、というところ。圭吾さんが仕掛けてくるから芳雄さんが笑ってふせちゃうのが楽しみになりつつあります。
◆M9 オネェで
歌詞「トニートニートニー!」
こちらもウエストサイドストーリーから。恋する乙女な「Tony, Tony, Tony」と名前を呼ぶシーンです。ロジャーにこんな発作を起こさせたトニー賞、「ヒトラーの春」ではとれませんでしたが(笑) この「プロデューサーズ」でなんと2001年に過去最高の12冠を受賞!いまだに記録は破られていません。素晴らしいーーーおめでとう!!
◆<ACT Ⅱ>M13 あの顔!
曲調
前述のMGMミュージカル映画、特にフレッド・アステアとジンジャー・ロジャーズのペアダンスは特徴的で、広いフロアを大きく動いたり、家具を使ったり、というところがまさに!!
◆<ACT Ⅱ>M20 初日にそれ言っちゃダメ
歌詞「メルド!」
merde (仏)
意味:糞便
歌詞「トイトイトイ!」
toi toi toi (独)
意味:悪魔を表す Teufel の略語
歌詞「ハルス ウント バインブルック」
hals und beinbruch (独)
意味:首と足を折る
歌詞「オオカミに食べられろ」
In bocca al lupo (伊)
意味:オオカミの口の中へ
マックスの仕草
この曲の間マックスは楽屋口にはいっていく出演者にいちいち「good luck!」と声をかけ、鏡を割り、黒猫を投げ込む、とひたすら縁起の悪いことをし続けています。
台詞「お守りのグロリア・スワンソン黒子」
アゴの黒子がチャームポイントの名女優。特に往年の大女優役を大女優が演じる「サンセット大通り」が代表作で、大女優の代名詞。大女優にあやかってのつけぼくろ。
◇<ACT Ⅱ>S5マックスのオフィス
人物「アイルランド人の警官」
20世紀前半までは特にアイルランド系移民の多くが警官や消防士になることが多く、その訛りと故郷への愛着、が米国民の共通認識としてあります。
アイルランド系の名前は最初に「O'~~」(~の子孫)がつく人が多く、それでマックスが急に「オビアリストックです」と言い出すんですね。
台詞「パット・オブライエン映画祭」
Pat O'Brien
パット・オブライエンはアイルランド系の映画俳優。多くの賞を受賞した名優。
台詞「アイルランドは永遠ではない」
アイルランドのゲール語で古くから言い慣わされている"Erin go Braugh" 「アイルランドよ永遠に」を移民たちはもじって"Erin no Braugh" 「アイルランドは永遠ではない」とふざけたりするものの、部外者に言われると許せない、的な感覚かなぁと想像しています。
台詞「コンビーフとキャベツ」
アイルランドのソウルフード。移民の多いアメリカ各地でも盛大に祝われるアイルランドのカトリックのお祭り、セントパトリックデーには必ず伝統料理のコンビーフ&キャベツを食べ、黒ビールを飲んで、街中を緑色にして楽しみます。
訛り
地方バラバラで探り中
・オブライエン巡査 O'Brien (主任っぽい人)
津軽弁かなぁ…一人称が「わ」
・オルーク巡査 O'Rourke (フランツを連行)
南部弁かなぁ…語尾が「だじゃ」
・お名前?巡査 (会計簿を見つける巡査)
これがわからない。静岡…?語尾が「だら」
(→愛知県の三河弁では?というご意見お聞きしました!ありがとうございます!)
・オフリーハン巡査 O'hoolihan (マックスを連行)
)訛ってないけど、「故郷のキラーニ」はアイルランドの国立公園があるところなのでアイルランド系の人ではありますね。若いから訛りが強くないみたいな設定…?
◆<ACT Ⅱ>M21 裏切り者
台詞「ブロンクス育ち」
ニューヨークの中でも特にユダヤ系の人口が多い地域です。
◇<ACT Ⅱ>S9 シューバート通り
看板「MAIM」
→「MAME」1964年初演のブロードウェイミュージカル。メイムは主人公の名前でしたが、傷つけるという意味の語に。
看板「KATZ」
→「CATS」1981年初演のロンドンミュージカル。ドイツの一部地域では猫(katze)をkatzと綴ることがあるようなので、比較的そのまま?
看板「HIGH BUTTON JEWS」
→「HIGH BUTTON SHOES」1947年初演のブロードウェイミュージカル。shoes(靴)が jews(ユダヤ人)に。
看板「47th STREET」
→「42th STREET」1993年公開のミュージカル映画。どちらもニューヨークに実在の大通り。42thにはロジャーが扮した(?)クライスラービルがあり、47thにはいくつもの劇場やブロードウェイの当日券を買えるチケットブースがあります。
看板「A STREETCAR NAMED MURRAY」
→「A STREETCAR NAMED DESIRE」1947年初演のブロードウェイ演劇。テネシーウィリアムズの名作「欲望という名の電車」が人見知りの電車…?
看板「SHE SHTUPPS TO CONQUER」
→「SHE STOOPS TO CONQUER」1773年初演のロンドンコメディ「負けるが勝ち」。shtuppは俗語でfuckの意。
看板「SOUTH PASSAIC」
→「SOUTH PACIFIC」1949年初演のブロードウェイミュージカル。ミュージカル隆盛期の名作「南太平洋」がアメリカの地方都市に。
看板「DEATH OF A SALESMAN ON ICE」
→「DEATH OF SALESMAN」1949年初演のブロードウェイ演劇。「セールスマンの死」をスケートで!?
看板「FUNNY BOY 2」
→1晩でクローズした あの FUNNY BOY の続編ですか!?(笑)
あーーまだ気になるとこすっごいあるけど掘ってくとキリがないのでとりあえず以上!
(11/20 説明をちょっと追記、簡易表示したらすこぶる見づらかったので項目を太字、にしました)